2015年6月 のアーカイブ

市民タイムス5月掲載「知っておきたい遠近両用メガネの話」 第1話

第1話 「遠近両用レンズには1人ひとりに最適の設計がある」

遠近両用レンズは、いろいろなメーカーから多種多様なレンズが販売されています。薄型化など素材やコートの種類もありますが、遠近両用レンズは、さらに設計の違いで種類が豊富になります。

私は、メーカーで長年メガネレンズの企画開発を行ってきました。遠近両用レンズは、見た目は普通の透明なレンズですが、上部に遠くを見るエリア=遠用部、下部に近くを見るエリア=近用部、それを結んで徐々に度が変わるエリア=中間部、が設計されていて、両サイドに少し物が歪んで見える=収差が出るエリアがあります。(図の点線の外側)ごく簡単に言いますと、遠用部や近用部を広くとると、収差の度合いが強くなります。こういう設計をハード設計と言い、一般に近視系の目の人に合います。一方、収差の強さを抑えて、全体にマイルドな見え方にしたものはソフト設計で、一般に遠視系の目の人に合います。(遠視系のメガネは凸レンズで、物が少し拡大され、収差を感じやすいため。)また、中間部の長さ=累進帯長は、1mm刻み、10mm~15mmくらいで、短いほど収差が強くなります。あと、遠用部と近用部の度の差=加入度は、0.25飛び、1.00(40代後半)~3.00(60代後半以降)くらいで、大きくなるほど収差が強くなります。中間部が短いと上下の幅の狭いフレームに対応できたり、遠用部や近用部を広く取れます。しかし、加入度が強くなると収差が気になったり、パソコンの画面などを中間部で見る時に狭さを感じます。では、できるだけ累進帯長を長くすればいいかというと、あまり長いと目線が近用部に届かないという問題がおきます。以上は遠近設計の基本ですが、さらに遠用重視の設計、近用重視の設計等、使う人の使用環境や目の状況に合うよう、多くのバリエーションがあります。

このようにレンズはいろいろ開発されていますが、メガネとして活かされるかどうかは、使用者の目の状況と使用環境を適切に把握し、最適な設計のレンズを選び、加工や調整で目とメガネの距離や角度等、位置関係を正確に合わせるといったメガネ店の技術にかかっています。私はメーカーでレンズの企画開発に携わりながら、こうしていろいろ開発されてきたレンズの特性を最大限活かした、最高のパフォーマンスの遠近両用メガネを自分の手で提供したいという思いが次第強くなっていき、6年前にメガネ店を開設しました。この間多くの方々に遠近両用メガネをお作りする機会を得て現在に至っています。