2016年5月 のアーカイブ

老眼とメガネの詳しい話

老眼て何?

それは、まず知ってそうでよくわからない目の基本から。

目はとても度の強いレンズです。度が強いというのは光の方向を変える屈折力が強いということで、ものを見るためには、目を通る光をグッと曲げて目の奥の網膜に集め、その情報を脳に伝える必要があります。虫眼鏡で太陽の光を一点に集められますが、目はその何倍も強いレンズで、ディオプター(D)という単位で表し、約60ディオプターです。

もうひとつ重要なことが、この屈折力を自動的に変えることができるということです。これを調節力といいます。遠くを見る時よりも近くを見る時は、目のレンズの度を強くしないと近くのものに焦点が合いません。では、どれくらい強くするのか?答えは3Dくらいです。遠くを見ている時の目の屈折力を60Dとすると、1D強くすると、目は屈折力61Dのレンズになります。簡単な計算式でどこに焦点が合うか計算できます。1÷1D=1.0mすなわち1m先のものに焦点が合いよく見えます。2D強くすると1÷2D=0.5mなので50cm先がよく見えます。3D強くすると1÷3D=0.33mで33cm先がよく見えます。3D強くすれば目は63Dとなり、手元がよく見えるということです。

さて、ここまで理解すると老眼のことがよくわかります。老眼はこの目のレンズの屈折力を強くする調節力の衰えのことです。これが衰えるから近くが見づらくなります。目にはレンズである水晶体という器官があり、水晶体を膨らませるとレンズの度が強くなり近くが見えます。加齢とともにこの水晶体を膨らませる力が衰えたり、水晶体自体が硬くなったりして、水晶体が膨らまなくなるのが老眼です。40代後半からそうなり、加齢とともに進みます。例えば、50才で調節力が+2Dだとすると、1÷2D=0.5mすなわち遠くから50cmまではよく見えますが、そこからさらに近いところは見づらくなります。例えば60才で調節力が+1Dだとすると1÷1D=1mまでです。

さて、それでは近いところを見るためにはどうしたらいいか?目自体の度を強くできないのならレンズ(メガネ)で補ってあげればいいということになります。手元33cmを見るためには調節力+3Dが必要でした。調節力+2Dの人は1D足りません。そこで+1Dのメガネを掛ければ+3Dとなり手元が見えます。

ちなみに、この調節力の衰え=老眼の進行はかなり年齢に比例し個人差が少ないものです。そう言うと、「私は(あるいは私の周りのあの人は)、60才だけどメガネを掛けなくて新聞を読んでいますよ。」という声が聞かれそうです。そのからくりは、目の性質によります。すなわち、近視とか遠視とかその話です。近視というのは、近くに焦点が合うので遠くが見づらい目です。もともとが60Dでなく63Dの目の人は近視です。3D強い目は1÷3D=0.33mに焦点が合います。その人が調節力を例えば+3D使ったときは66Dです。+6Dとは、1÷6D=0.16mで16cmに焦点が合います。この人は、33cmから遠くはボヤけます。それでは遠くが見えなくて、車の運転もできません。ではどうしたらいいか?マイナス3Dのメガネを掛ければ、63D-3D=60Dになり遠くがよく見えます。-3Dのメガネを掛けた状態で調節力+3Dを発揮すれば、63Dとなり手元も見えます。

ここでちょっと2点説明しておきますと、ひとつは調節力というのはプラスの力、目の度数を強くする力で弱くはできません。だからたとえば63Dの近視の目の人は66Dにできても、自力で60Dにはできません。もうひとつは、近視や遠視というのは目の度数と網膜までの距離との関係で決まるということです。平均的に60Dで眼球の大きさ等が平均的だと遠いものがちょうど網膜で結像するということで、例えば60Dでも網膜までの距離が長い人は近視になります。

では、話を戻して、老眼になった時に掛けるメガネのことを説明します。先ほどの話で、普段メガネを掛けていない人が老眼になって近くが見づらいのでメガネを掛けて近くを見えるようにしますが、そのメガネを掛けた状態で遠くを見るとどうなるか?目の度が60Dの人が+1Dのメガネを掛けると61Dの状態で遠くを見るということになります。これは1D分近視の状態で遠くを見ることになります。計算で言うと、1÷1D=1mで、1mから遠くはボヤけます。+1Dのメガネを掛けて近くは見えるようになったのですが、そのメガネを通すと遠くは見えなくて困るので、メガネの掛け外しや鼻メガネ状態が必要になります。

ちなみに、もう一人の63Dの近視の目の人は、調節力が+2Dに衰退すると、-3Dの近視用のメガネを掛けた状態で遠くは60DでOKですが、近く、例えば33cmのとこころは+3Dに対して調節力+2Dでは+1D足りません。-3Dの近視用メガネを掛けた状態では老眼により50cmより近くは見づらいのです。そこで、-3Dのメガネに+1Dして、-2Dのメガネを掛ければ近くはよく見えます。しかし、-2Dのメガネを掛けた状態では元々の63Dの目に-2Dのメガネで61Dで遠くを見るので、60Dに対して+1D近視の状態で遠くを見るため1mから遠くがボヤけます。そこで、-3Dのメガネと-2Dのメガネを状況のに応じて掛け替えるか、近くはメガネを外して、おでこに上げる等して見ます。

そこで便利なのが遠近両用メガネで、最初の人の場合、遠くは0D、近くは+1Dの遠近両用メガネにすれば、メガネを掛けたまま遠くも近くも見えます。次の近視の人の例で言えば、遠くは-3D、近くは-2Dの遠近両用メガネを掛ければメガネを掛けたまま遠くも近くも見えます。それぞれ、メガネの度は違いますが、この2人がそれぞれのメガネを掛けた時の見え方は同じです。遠近両用メガネの遠くと近くの度の差を加入度と言います。この場合、両方のメガネとも加入度は+1Dです。遠近両用メガネはその人の老眼の進み具合に応じて加入度が変わります。レンズの度は0.25Dが基本単位になりますが、老眼になりたての40代後半で加入度は+0.75~1.25くらい。50代で+1.25~2.25くらい。60代以降一般的な視生活では、加入度は+3.00くらいまでです。+3.00とうのは、その人の調節力が0でも33cmが見える度です。

メガネ店では、それぞれの人の調節力を測定して足りない分をちょうど補うような度のメガネを作ります。言いかえれば、その人の(残っている)調節力をしっかり発揮した上で足りない部分をメガネで補っています。メガネを掛けると老眼が進むのではと勘違いしている人もいますが、老眼の進行というのはだいたい加齢に比例し、個人差は若干です。脚の筋肉などは、衰えを遅らせるために日々のトレーニングなどで、60代でも30代なみの人がいるかもしれませんが、調節力はそういう訳にいきません。外見が若く見える60代の人でもさすがに30代に見られることは滅多にないのと同じで、個人差はあっても年相応の調節力の衰え、すなわち老眼になります。これは、学術的にもそうですが、私どもが日々多くの方を検眼していても例外がないことがわかります。すなわちメガネを掛けても掛けなくて老眼は進みます。一番問題なのは、見づらい状態で我慢して見ていることで、目にストレスがかかり眼精疲労や肩こり等の不調の原因にもなります。

今の遠近両用メガネは遠くを見るエリアと近くを見るエリアを連続的に度が変わって滑らかに結ぶエリアがあり、見た目は境目が無く単焦点メガネと変わりません。上下のわずかな視線の移動で遠くから近くまでピントが合います。また、使う人の目の状態や用途に応じて、各メーカーから多種のレンズが発売されています。メガネ店の重要な役割としては、それぞれの方に最適の度数やレンズの種類を選定することと、フィッティング技術などで目とメガネの正確な位置関係を実現することです。人は全体の情報量の80%を目から得ているとも言われています。老眼になっても無理をして見ているということは、ストレスがかかると同時に重要な情報を効率的に入手できないということです。適切な遠近両用メガネでスマートに仕事や生活の質を上げてみませんか?