‘市民タイムス掲載 目とメガネの講座’ カテゴリーのアーカイブ
知っておきたい「遠近両用メガネ」の話 第5話
第5話 老眼について知っておきましょう!
40代後半になるとどなたも老眼を経験することになります。老眼は一般的には近いところが見えづらくなる現象ですが、若いころからメガネを掛けている人とメガネを掛けていない人で、老眼になった時の仕草が違います。若いころからメガネを掛けている人は、大部分が近視の人です。近視の特徴を一言で言うと、遠くがぼやけて近くにピントが合う目です。遠くがぼやけると学校で黒板の字が見えなかったり、運転免許で視力が足りなかったり不便なのでメガネを掛けます。強めの近視の人はメガネを外すとだいぶ近いところでピントが合います。また弱めから中程度の近視の人は40代後半になっても、メガネを外すとちょうど手元でピントが合うので、老眼ではないと思う人もいますが、その状態では遠くがぼやけ、メガネを掛けると遠くはハッキリしますが近くが見づらいので、目の状態は老眼です。おでこにメガネを上げて近くを見るのが特徴的な仕草です。一方、若いころからメガネを掛けていない人には、正視(近視でも遠視でもない)の人と、遠視の人がいます。正視の人が40代後半くらいから老眼になると、遠くは相変わらずよく見えますが、近いところが見えづらくなります。一方遠視の目は遠くが良く見えて近くが苦手な目です。遠視の人が老眼になると、遠視の強弱にもよりますが、早い人では40才前後から近いところが見づらくなります。正視や遠視の人が老眼鏡を使うと遠くを見る時は老眼鏡が邪魔なのでよく鼻メガネになります。
では老眼とは何でしょうか?これも一言でいうと遠くから近くまで無意識にピントを合わせる力=調節力の衰えです。調節力の衰えが何故おこるかというと、目の水晶体の硬化と目の筋肉=毛様体筋の衰えです。
その2つの進行により水晶体を膨らませることができなくなり、自在なピント合わせができなくなってきた状態です。よく老眼鏡に+1.00(弱)+2.00(中)+3.00(強)などと書いてあると思いますが、水晶体を膨らませて+3.00度を強くすると3.00の逆数(1÷3.00)=0.33mすなわち33cmにピントを合わせる事ができます。老眼はこのことが段々できなくなるということで、自力で調節できるのが40代後半で+2.50~+1.75 見える近いところは40cm(1÷2.50=0.4m)~57cm(1÷1.75=0.57m) 50代で+1.75~+0.75(57cm~133cm) 60代以降で+0.75~+0.25(133cm~400cm) 33cmのところを見るためには必要な調節力+3.00に対して足りない部分をメガネで補うことになります。例えば自力が+1.00なら+2.00の加入度のメガネとなります。なお、ここにあげた数字は日常生活でPC画面や新聞等ある程度持続して見る場合の調節力です。瞬間ならこの数字の倍くらいいけるかもしれません。
老眼の進行を遅らせるために調節力を鍛えたいと、かなり近くが見づらくても頑張ってメガネを掛けないとうい人がいます。しかし老眼(水晶体の硬化と毛様体筋の衰え)は年齢とともに必ず進行し鍛えて維持したり強化することはできません。遠近両用メガネは使用するそれぞれの人に最適な加入度で作ります。言い変えると、その人がその年齢で発揮できる調節力は自力で最大発揮しながら、それ以上は無理な部分を適正な加入度で補っています。だから遠近両用メガネを掛けたからといって掛けないより老眼が早く進むということはありあません。目は膨大な情報をとらえる重要な器官ですから、見づらいのを我慢していることによる眼精疲労や、ストレスが体に及ぼす悪影響の方が問題が大きいと言われています。
市民タイムス8月掲載「知っておきたい遠近両用メガネの話」第4話
第4話「遠近両用メガネの価格のちがいについて」
遠近両用メガネの性能の差と、それに伴う価格の差について説明したいと思います。
フレームの価格差も大きいのですが、ここではレンズについて説明します。大きくは、素材やコーティングの差と、設計の差があります。このうち、素材やコーティングの差は比較的わかり易いと思います。薄型、超薄型のように、度の強いレンズを少しでも薄く、軽くすること、また、よりキズが付きづらいコート、青色光カットのコート等で、これによって一般的には値段も違ってきます。一方、設計の差についてはわかりづらいのではないかと思いますので、今回はこの設計の差を説明したいと思います。一言で言うと、遠近特有の周辺部の歪み(右図の両サイドの点線の外側の部分、なお、実際のメガネはこのような線はありません)や目線を横に移動させた時の像のユレをいかに少なくするかということになります。
価格の差に関係してくる設計の違いは大きく3つのグループに分かれます。
1.外面累進タイプ(スタンダードタイプ)
累進(面)とは右図の中間の部分です。遠用部と近用部をつなぐところで連続的に徐々に度数が変化しています。この累進面により、以前のような境目がなくなり、また、遠くから近くへ自然に焦点が合うようになりました。メーカーは、多くの人に合うような累進設計を予めレンズの外面(表面)に施しておき、注文が入ると、裏面でそれぞれの人に合った、近視や遠視や乱視の度数を研磨して作り上げます。洋服で言えば、セミオーダーメイドです。
2.内面累進タイプ(カスタムタイプ)
累進面をレンズの裏面(内面)に施すと、歪みやユレが軽減されることは、光学理論上は早くからわかっていましたが、累進面と近視や遠視や乱視の設計を全て裏面に持って来ることは、設計上も生産技術上も困難でした。このことが、1990年代の中ごろからできるようになりました。当初はかなり高額なレンズでしたが、段々コストもこなれてきて、最近は内面累進タイプの遠近が増えてきました。洋服で言えばオーダーメイドで、注文後にそれぞれの人に合った設計でレンズを研磨します。
3.両面制御タイプ(カスタムタイプ)
最近新たに開発された設計で、基本は上記の内面累進タイプですが、外面にさらに内面と連動した設計を施しています。具体的には、レンズを通して物を見ると、倍率と形が微妙に変化します。この変化をできるだけ、元の大きさや形に近づけるような工夫が外面に設計されています。
上記の1→2→3の順により快適な視界が実現されます。特に、老眼が進んできて、遠近の度数の差が大きくなってくると、性能の差が明確になります。新しい設計や生産技術は、開発費や生産設備の新規投資等のコストが上乗せされるため、価格面でも差があります。
市民タイムス7月掲載「知っておきたい遠近両用メガネの話」第3話
第3話 「中近メガネの構造と使い方」
老眼対策のメガネとしては、生活のほとんどの場面に対応できる遠近両用メガネが一般的ですが、より快適な視生活を実現するために中近メガネを併用する場合があります。
中近メガネは遠近両用メガネの設計技術を応用して作られたメガネで、設計上は中間部が20mm~25mmと長く、遠用部が狭い構造になっています。視線のほとんどが中間部と近用部を使うことになります。その結果、お手元からパソコンの画面あたりが遠近両用メガネより広い視界になります。遠用部が狭いのと度数が連続的に徐々に変化している中間部で少し離れたところを見るため、遠いところが少しぼやけたり、遠近両用メガネの見え方に慣れていると、使い始めの時に少し離れたあたりの見え方に違和感を感じる場合があります。では、中近メガネはどういう時に便利かと言うと、長時間のデスクワーク、細かいものを見る場合、また、50代後半以降で遠近でパソコンの画面をアゴを上げて見て疲れる等の場合に便利です。室内程度の距離ならだいたい見る事ができ、掛けたまま歩けます。中近レンズは、近く重視の設計や、遠くもある程度見える設計など、設計上の特徴が遠近両用レンズ以上にハッキリしています。また、メガネ店での度数の決め方やメガネフレームへのレンズのセット位置でも見え方がだいぶ変わります。それで、中近メガネを作る場合は、使用者とメガネ店でよく意思疎通をしておかないと、思惑通りのメガネにならない場合があるので要注意です。遠近両用メガネの場合もそうですが、メガネ店に相談に行く前に、現在見え方でどういう時に不便を感じているか、パソコンを長時間使うか、その場合のパソコンのモニター(画面)の目からの距離や高さなどを説明できるように整理しておくのが良いと思います。ほかには、近々メガネというものがあります。老眼鏡に少し奥行きを持たせたメガネです。用途はほとんどパソコンを使うとき用で、特に老眼がだいぶ進んだ60代以降でパソコンを楽に見たい場合です。掛けたまま歩くのには適していません。
あと、老眼鏡を使う場合、既製老眼鏡は安くて便利ですが、目のためには測定に基づいた正確な度数と、瞳とレンズの焦点の正しい位置関係から作られたメガネをオススメします。
市民タイムス6月掲載「知っておきたい遠近両用メガネの話」 第2話
第2話 「快適な遠近メガネにするためのキーポイント」
遠近両用メガネは遠くから手元までピントが合うので、生活シーンのほとんどをカバーする便利なメガネです。最近手元が見づらいと感じ始めた方や、すでに遠近両用メガネを掛けているけれど、どうも見えづらいといった方がいると思います。
<快適な遠近両用メガネの3つのポイント>
お使いの遠近両用メガネに不具合を感じる場合、3点ほどチェックポイントがあります。1つは、目の中心とレンズの焦点の位置、目とレンズの距離、レンズの傾き具合等、目とメガネの位置関係が適切でない場合です。この場合は、メガネを変えなくても調整を正確にしなおせば解決する場合があります。2つ目は、レンズの設計が合っていない場合です。レンズメーカーは何社もあり、各社がいろいろな設計のレンズを出しているので、メガネ店が、使用者に一番合った設計を選択する必要があります。例えば、近いところを見る時に、レンズの累進帯長(レンズ上部の遠くを見るエリアと下部の近くを見るエリアを結ぶなだらかに度が変化していく部分の長さ)が長くて、目線がレンズの近くを見るエリアにとどかないといった事例は時々確認されます。レンズ設計が合わない場合は、レンズを替える必要がありますが、目の状況や使用環境に合った設計のレンズに変えるとかなり快適な見え方になります。3つ目は、度数が合っていない場合です。老眼は進行するので、その結果度が合わなくなったりします。また、老眼の進行と共に従来より少し近視の度合いが弱くなることもあり、以前のメガネだと目に負担がかかっていることがあります。
<初めて遠近両用メガネ>
初めて遠近両用メガネを掛けて見ようか、という時は何かと不安があるかと思います。私は年に2回行っているセミナーで、遠近両用メガネをテーマに、老眼のメカニズム、遠近両用メガネの構造、慣れ方や使い方のコツ、などを説明していますが、店舗で実際にお作りする時もそれぞれのポイントをご説明しています。前述の3つのポイントが適切に作られていることと、初めての場合は慣れて使えるようになるということも重要なポイントとなるので、目の状況や、今までメガネをかけていたかいなかったかなど、おひとりずつのケースで工夫が必要になります。そして、慣れ方について脳のしくみも交えてお話しています。
<メガネでオシャレを楽しむ>
メガネは視力的に目に合っていることが前提ですが、ファッション的に似合っていることも重要なポイントだと思います。遠近両用メガネが必要な世代は、エイジングケアに関心がある人も多いと思います。メガネのデザインや色により、だいぶ若々しい印象にできます。また、レンズにうっすら色を入れる事で、小じわやくすみを目立たなくすることができ、オシャレの重要なアイテムともなります。
市民タイムス5月掲載「知っておきたい遠近両用メガネの話」 第1話
第1話 「遠近両用レンズには1人ひとりに最適の設計がある」
遠近両用レンズは、いろいろなメーカーから多種多様なレンズが販売されています。薄型化など素材やコートの種類もありますが、遠近両用レンズは、さらに設計の違いで種類が豊富になります。
私は、メーカーで長年メガネレンズの企画開発を行ってきました。遠近両用レンズは、見た目は普通の透明なレンズですが、上部に遠くを見るエリア=遠用部、下部に近くを見るエリア=近用部、それを結んで徐々に度が変わるエリア=中間部、が設計されていて、両サイドに少し物が歪んで見える=収差が出る
エリアがあります。(図の点線の外側)ごく簡単に言いますと、遠用部や近用部を広くとると、収差の度合いが強くなります。こういう設計をハード設計と言い、一般に近視系の目の人に合います。一方、収差の強さを抑えて、全体にマイルドな見え方にしたものはソフト設計で、一般に遠視系の目の人に合います。(遠視系のメガネは凸レンズで、物が少し拡大され、収差を感じやすいため。)また、中間部の長さ=累進帯長は、1mm刻み、10mm~15mmくらいで、短いほど収差が強くなります。あと、遠用部と近用部の度の差=加入度は、0.25飛び、1.00(40代後半)~3.00(60代後半以降)くらいで、大きくなるほど収差が強くなります。中間部が短いと上下の幅の狭いフレームに対応できたり、遠用部や近用部を広く取れます。しかし、加入度が強くなると収差が気になったり、パソコンの画面などを中間部で見る時に狭さを感じます。では、できるだけ累進帯長を長くすればいいかというと、あまり長いと目線が近用部に届かないという問題がおきます。以上は遠近設計の基本ですが、さらに遠用重視の設計、近用重視の設計等、使う人の使用環境や目の状況に合うよう、多くのバリエーションがあります。
このようにレンズはいろいろ開発されていますが、メガネとして活かされるかどうかは、使用者の目の状況と使用環境を適切に把握し、最適な設計のレンズを選び、加工や調整で目とメガネの距離や角度等、位置関係を正確に合わせるといったメガネ店の技術にかかっています。私はメーカーでレンズの企画開発に携わりながら、こうしていろいろ開発されてきたレンズの特性を最大限活かした、最高のパフォーマンスの遠近両用メガネを自分の手で提供したいという思いが次第強くなっていき、6年前にメガネ店を開設しました。この間多くの方々に遠近両用メガネをお作りする機会を得て現在に至っています。

