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メガネとは何か?(光学的にみて)

前回の調節力についての説明で、近視や遠視のことも少し触れましたが、もし興味がある方がいたら、もう少し説明が必要かと思いましたので、「光学的な側面から、メガネとは何か?」というテーマで述べてみたいと思います。

一言で言うと、『目を、正視で調節力がある状態に近づける道具』ということができます。

目は、約+(プラス)60D(ディオプター)の大変強い凸レンズです。近視の人は調節力を使わない状態(遠くを見る状態)で、60Dより強い度の目を持った人です。(調節力については前回のブログを参考にして下さい。)それで、遠くがぼやけてピントが合いません。例えば、63Dの目の近視の人には、-(マイナス)3Dのレンズを目の前に置くと両方で60D(+63D-3D)で正視の人と同じになります。また、遠視の人は調節力を使わない状態で、60Dより弱い度の目を持った人です。例えば57Dの目の遠視の人は60Dに3D足りないので、+3Dのレンスを目の前に置くか、自身の調節力で目を60Dにします。なお、実際は60Dという目の度数だけでなく、網膜までの距離も関係してきますが、複雑な説明にならないよう、正視=60Dとして説明しています。あと、乱視は目が球体でなく少しラグビーボールのように楕円で、物が歪んで見えます。(乱視も正確にはもっと説明が必要ですが、ここでは簡単に説明しています。)例えば目が水平に対して45°方向が-3D、135°方向が-2Dなら、近視で乱視の人ですが、それぞれのところが、+3Dと+2Dの(球面でない)レンズを目の前に置けば60Dになります。

この、目の前に置くレンズ、これがメガネです。

もうひとつ、調節力がある状態に近づける、ですが、これも前回のブログの内容を理解いただいていることを前提にして説明しますと、調節力が1Dになった老眼の人は、目の前33cmのものを見るためには、33cm=0.33m=3D(1÷0.33)と、自身の(持続可能な)調節力1Dの差+2Dのメガネを掛ければOKです。しかし、ここで問題がおきます。33cm先のものを見るにはそれでいいのですが、その状態ではっきり見えるのは50cmから33cmの範囲で、50cmから先はぼやけてしまいます。前回のブログではここは説明していませんが、老眼(で正視)の人が+2Dのメガネを掛けるということは、遠いところを見るということでは、62Dの近視の人と同じ状態になっているのです。(参考までに62Dの近視の人は、2D(62D-60D)の逆数(1÷2)=0.5mから先はぼやけることになっています。(数字を変えると、64Dの人は、25cmから先がぼやける。))そこで、縦の目線移動に着目して、全ての距離にピントが合うように開発されたのが、境目のない遠近両用メガネです。この遠近両用メガネは累進帯というエリアを持っています。累進とは連続的に変化していくということで、ここではレンズの度数が連続的に変化していきます。この遠近両用メガネは、メガネの上部が遠くを見るエリア、下部が近くを見るエリア、そして上と下をつなぐエリアが累進帯で遠くから近くへ目線移動でピントが合います。現在の科学では調節力が衰えた老眼の人が、調節力自体を取り戻すことは不可能ですが、目線移動で調節力がある状態の見え方に近づけることは可能になりました。それが遠近両用メガネで、調節力がある状態に近づけることができるメガネです。

フォーサイトの遠近両用メガネ、その背景には・・・

 

40代中ごろからの老眼はやっかいなもので、遠くも近くも見えるのは当たり前だったのが、遠くがよく見えると近くが見づらい、近くを見やすくすると遠くが見づらい、見づらいとしかめっ面になったり、シワになったり、肩こりの原因になったりします。今までメガネの必要がなかった人は、老眼鏡を掛けたら遠くは見えない、掛け外しが面倒で鼻メガネに、でも鼻メガネは結構年齢を感じさせるスタイルです。

そこで、解決策としては遠近両用メガネ!しかし、遠近を使っている人の中にも見え方が気に入ってなかったり、そもそも遠近を試したが自分には合わないと思っている方も。

遠近両用メガネは40代後半以降の視生活を快適にすることに間違いありませんが、条件があります。

私は、メーカーでメガネレンズの企画開発を長年行ってきました。遠近両用レンズはいろいろな設計が工夫されメーカー間でしのぎを削っています。メガネ業界も、技術の進歩で自動化された検眼機やメガネ加工機で、マニュアル的にメガネが出来るようになってきました。しかし、メーカーがどんなにいい製品を開発しても、遠近両用メガネはメガネ店の技量で出来上がりに差が生じてしまいます。私はメーカーの企画部門にいた時に、ハード面でレンズを企画開発するだけでなく、メガネとして仕上げるメガネ店が最適の遠近メガネに仕上げるためのソフト面でのソリューション(解決)提案ができないか考えました。いい遠近メガネを作るためには、通常の検眼だけでなく、使用者がどういう環境で使用するか(例えばデスクワークが多く、パソコンの画面は少し離して見る等)や、今までどんなメガネを掛けてきたか、等の個別情報を基に、最適のレンズ設計を選定し、メガネとして適正な状態(目とレンズの位置関係等)で掛けられるようにフィッティング(調整)することが重要だからです。しかし、メーカーの立場でこのようなしくみを作ることは結局できませんでした。

それで、いろいろ考えた末に、自分自身でメガネ店を運営していいメガネを提供することを決め、6年前にこの店を開業しました。小規模な店ですが、自分の経験を活かして、ユーザー(お客さん)一人ひとりに満足していただける遠近メガネを、できるだけ価格も抑えて提供すること、遠近メガネの講習会を行うこと、などの活動を行っています。

遠近両用メガネを買いに行くときの準備事項

遠近両用メガネを買いに行く時の準備として、

1.普段メガネを使っている方はそのメガネをご持参下さい。

2.今のメガネでの(メガネをしてない人はしてない状態で)不具合点を説明できるようにしておいて下さい。

3.「見る」という観点から、仕事やオフでどのような時間が長いかを説明できるようにしておいて下さい。

4.眼科関係で何かあったら説明できるようにしておいて下さい。

では次に、それぞれについての具体例や、よい遠近両用メガネを作るために何故そのような情報が必要かを説明したいと思います。

1について、例えば、運転用とお手元用を使い分けている等、複数のメガネを使用している場合は、両方ご持参頂いた方がいいと思います。また、コンタクトレンズをお使いの方はその種類(ハード/ソフト)と度数。新しくメガネを作る場合は、それまで目が置かれてきた環境の情報は非常に重要です。目をお測りしてピッタリの度数で作ったとしても、今までお使いのメガネと大きく違う度の場合、慣れられないこともあります。また次の2と関係しますが、お使いのメガネでの不具合点を改善するためには、お使いのメガネの度数や、掛けたときの状態(目に対する位置関係等)を確認する必要があります。

2について、例えば、新聞の字が見ずらい。パソコンの画面が見づらい。また、もう少しテレビの画面をはっきりみたい等、ご希望点という観点でもよいかと思います。何故今のメガネでそのような不具合点が生じているのかの原因を1つ1つ追求し、検眼によりどの程度の改善(度数)が必要かを判断します。

3について、例えば、読書の時間が長い、パソコンの時間が長い、検査の仕事をしている、スポーツをしている等、目の置かれている状況の確認ですが、より具体的に説明していただけると、最適のレンズ設計を選んだり、度数を決めることができます。読書する時の目と本の距離、パソコンとの位置関係、目からの距離や画面の位置(目に対して正面か下の方か)、どれくらい細かいものをどの位置で検査するか、等。遠近両用レンズの設計は見た目にはわかりませんが、多くの種類がメーカーから用意されていて、メガネ店でこの中から最適なものを選べるかは大きなポイントになります。

4について、例えば、白内障の手術を受けたとしたらいつ受けたか等、お伺いできる範囲での確認。

最適のメガネを作るために、メガネ店のスタッフはこのような情報を伺いながらひとつひとつ判断していきます。遠近両用メガネは特に技術的要素の高いメガネですから、正確な情報が伝わるよう、予め上記のようなことを頭の中で少しまとめてから店舗に赴くとよろしかと思います。

 

遠近両用メガネの価格の差、性能の差

遠近両用メガネの性能の差と、それに伴う価格の差について説明したいと思います。

フレームの価格差も大きいのですが、ここではレンズについて説明します。大きくは、素材やコーティングの差と、設計の差があります。このうち、素材やコーティングの差は比較的わかり易いと思います。薄型、超薄型のように、度の強いレンズを少しでも薄く、軽くすること、また、よりキズが付きづらいコート、青色光カットのコート等で、これによって一般的には値段も違ってきます。一方、設計の差についてはわかりづらいのではないかと思いますので、今回はこの設計の差を説明したいと思います。一言で言うと、遠近特有の周辺部の歪み(右図の両サイドの点線の外側の部分、なお、実際のメガネはこのような線はありません)や目線を横に移動させた時の像のユレをいかに少なくするかということになります。

価格の差に関係してくる設計の違いは大きく3つのグループに分かれます。

1.外面累進タイプ(スタンダードタイプ)

累進(面)とは右図の中間の部分です。遠方部と近方部をつなぐところで連続的に徐々に度数が変化しています。この累進面により、以前のような境目がなくなり、また、遠くから近くへ自然に焦点が合うようになりました。メーカーは、多くの人に合うような累進設計を予めレンズの外面(表面)に施しておき、注文が入ると、裏面でそれぞれの人に合った、近視や遠視や乱視の度数を研磨して作り上げます。洋服で言えば、セミオーダーメイドです。

2.内面累進タイプ(カスタムタイプ)

累進面をレンズの裏面(内面)に施すと、歪みやユレが軽減されることは、光学理論上は早くからわかっていましたが、累進面と近視や遠視や乱視の設計を全て裏面に持って来ることは、設計上も生産技術上も困難でした。このことが、1990年代の中ごろからできるようになりました。当初はかなり高額なレンズでしたが、段々コストもこなれてきて、最近は内面累進タイプの遠近が増えてきました。洋服で言えばオーダーメイドで、注文後にそれぞれの人に合った設計でレンズを研磨します。

3.両面制御タイプ(カスタムタイプ)

最近新たに開発された設計で、基本は上記の内面累進タイプですが、外面にさらに内面と連動した設計を施しています。具体的には、レンズを通して物を見ると、倍率と形が微妙に変化します。この変化をできるだけ、元の大きさや形に近づけるような工夫が外面に設計されています。

上記の1→2→3の順により快適な視界が実現されます。特に、老眼が進んできて、遠近の度数の差が大きくなってくると、性能の差が明確になります。新しい設計や生産技術は、開発費や生産設備の新規投資等のコストが上乗せされるため、価格面でも差があります。